♯黒板エッセイ

高等学校の先生になった人が最初に読むべきこと

生徒へのメッセージと出版予定の書籍原稿をアップしています。出版社は決まっていません。教員12年目

【キャリア教育】推薦と一般、得なのはどっち?

◯保護者会(三者懇談)の内容

1学期終業式に向けて保護者会を実施しています。高校3年生の大切な進路を、本人と保護者が共通理解をもって決定していく大切な会です。この会で進路を確定させるわけではありませんが、この後の選択肢を明確にすることで、自分の人生をきちんと設計していけるため、私はかなり踏み込んだ話をします。例えば、以下のことを聞きます。

・第一志望の大学、学部、学科

・受験方法

・第一志望の大学が不合格だった場合

 

特に3つ目をこの時期に聞く理由は、直前期にそんなことを話題に出すと、「担任は自分の能力だと第一志望大学に受からないと思っているんだ」と思い込んでしまうし、モチベーションも下がるからです。

現に今の段階でかなり厳しい話をするため、泣き出してしまう生徒もいました。でも、受験を失敗したりその後の大学生活を失敗したりするよりは、今心が折れた方が良いと思うのです。

 

 

◯受験方法とは?

現在さまざまな受験方法があります。指定校推薦、公募制推薦、総合型選抜、一般(2教科型、3教科型、マークor記述)などなど。他にもいろんな受け方があります。

●指定校推薦とは

指定校推薦は、大学から評定基準と人数の指定がある推薦入試です。例えば、ある大学の文学部日本語学科と英語学科から、「それぞれ評定3.8以上の生徒を1人ずつ送ってください。面接によって、その人物を判断します」とお手紙が届きます。そこで生徒達の中の、"校内の推薦基準を満たしている"生徒が希望を出します。この"校内の推薦基準"とは、評定平均値(全ての教科の5段階評価の平均値。1年生の1学期から3年生の1学期までの期間で計算するもの。)であったり、欠席遅刻早退の合計数が一定数以内であること。人物として推薦に問題がないことなどが挙げられます。

校内でまずその生徒が推薦に値するかを検討し、その上で希望に応じて、指定校推薦枠に誰を送るかを検討していきます。もしこの枠に2人の生徒が希望を出した場合は、どちらが推薦するにふさわしいかを検討していきます。一般的に評定平均値の高い方を推薦する傾向があります。ただし、これは学校生活を基に判断されるので、当然例外も起こり得ることが考えられますね。

 

●公募制推薦とは

公募制推薦は、大学が枠を設けて募集する推薦入試です。指定校推薦と異なる点は、学校ごとに定員が決まっている訳ではないということです。例えば、先ほどの、ある大学の文学部日本語学科が「10人の定員で、評定平均値3.5以上の生徒を募集します」とアナウンスしていたら、全国から該当する生徒から出願があるのです。

でも「推薦入試」の名の通り、推薦にふさわしい人物だと学校で判断された生徒に限って出願できます。当然受験者数も多く、難易度が高くなりますね。

 

●総合型選抜(旧AO入試)

専門学校ではAO入試という言葉を使い続けていますが、大学では名前を変更しました。大学によって受験内容は異なりますが、一般的に小論文や面接を課す所が多くあり、学力試験も加えて出題することもあるようです。この入試は推薦入試に先立って行われます。

 

●これらの入試のメリット

これらの受験方法で合格を決めることができれば、早い時期に進路が決まり、安心できるでしょう。そして入学前プログラムを設けている所もあることから、一般受験の生徒よりも早く、大学の学習がスタートできます。でも、その内容は高校の復習であることも多いようです。

 

●これらの入試のデメリット

早く決められた分、学習意欲が低下する傾向にあります。いくら意識していたとしても、受験勉強を継続している生徒ほどの必死さはないため、学力はどんどん落ちていきます。(もしかしたら落ちるという表現よりも、周りが上がっていくため相対的に下がると言った方が正しいのかもしれません。)

また入学後もその学力差を埋められないまま生活を送るため、「単位が取れない」「留年が決まりました」と嘆く卒業生を多く目の当たりにしてきました。

 

 

◯一般受験すべきという先生の本音

一般受験は時期こそ遅いですが、自分の努力に見合った学校へ進学できるメリットがあります。高校入試の時のように、基礎学力がある程度周りと同じであるため、その後もサボりさえしなければ卒業できます。だから自分の能力に見合わない大学への推薦よりも、ギリギリまで努力して勝ち得た進路に進んで欲しいのです。

 

 

◯高校入試との違い

そう考えてみると、高校入試の時点でもこのようなことが起きているのではないかと疑問に持たれる方がいると思います。高校入試の場合は、県内統一のテストが行われ、そこへ向けて業者テストや地区ごとのオリジナル模試を受験することで学力がどれほどついているか把握できます。言い換えれば、「校外での頑張り」が評価の対象になるということです。これは部活動の実績も同様です。

一方で大学入試となると、模試を受験することはあっても、その判定によって受験校を変えることはありません。先述の通り、推薦入試では「校内での頑張り」が評価の対象となるため、学力差が生じやすいという特徴を持っているのです。

 

 

◯結論、一般の方が得?

推薦入学は目の前のメリットのみを考えて選択すると、とんでもない結果を招き、人生を狂わせかねないため、一般の方が良いと言えるかもしれません。これは一般的な考え方です。しかし、これもまた大学まででしか考えていない"浅い"考えだと思います。

以下の言葉は、前回のキャリア教育に関するブログでも扱ったことです。

 

 

https://dzweb8823.hatenablog.com/entry/2020/07/05/【キャリア教育】「英語」が得意なら英語学科、で良いのか?

 

初任校で教えていた"キャリア"の定義は、

 

「どのような仕事に就くか」ではなく、「仕事を通してどのような人生を送りたいか」

 

つまり、我々教師のすべきことは、仕事を選ばせることではなく、生き方を考えるきっかけを与えて考えさせることこそ"キャリア"だったのです。

 

 

キャリアとは、生き方を考えること。このことを踏まえて、推薦入試と一般入試について再度確認していきます。ここでは分かりやすくするために、途中離脱してしまう生徒を例に説明していきます。

 

 

◯推薦入試で迎える波乱の人生

推薦入試を受験するため、自分の人生を学部学科に則して計画し、説明できるようにします。その後推薦入試を受けて合格した場合、人より早く進路が確定します。そこから必死に勉強することはなくなり、何となく勉強を続けていきます。

大学進学後、大学の講義内容のレベルの高さに衝撃を受けます。その内容は自分の将来の夢に近いはずですから、必死に勉強するのですが、やっぱりついていけません。するとこう思うのです。

自分にこの分野は向いていない?

自分の理想像は、ここで学べば本当に得られるのか?

疑問を抱き始めた学生は、もう一度自分と向き合い、自分のキャリアについて見つめ直すのです。その結果、大学を辞めて専門学校へ入り直したり必要な資格取得の勉強を始めたりします。親にとってはたまったものではありません。高いお金を払って、やっと本人が人生の軌道に乗ったと思ったら再び路頭に迷ったように見える…。でもこの「推薦入試を受けなければ良かった」は言い換えれば、推薦入試をきっかけにもう一度自分の人生について見つめ直すことができたということでもあります。結果、社会人になってからすぐに仕事を辞めるというリスクは回避できています。

 

 

◯一般入試で迎える波乱の人生

一方で、一般入試では、直前期に実力と向き合うため、妥協して進路を選択していく場合があります。今は浪人に魅力を感じない生徒が増え、現役合格を希望する傾向にあるからです。その結果、本当に行きたかったどうか分からない大学へ進学します。実力で合格した場所ですから、多少遊んでいても単位は取れます。だから、アルバイトに遊びにサークル活動に力を入れ、いつの間にか就職活動に突入していきます。ここで初めて、自分は結局何になりたいのかと問います。でも、力に見合った進路を選択してきたこの生徒は、就職先もそんなことを考えず、何となく決めていきます。そして就職した後に「自分はこんなことをするためにこの会社に入ったわけじゃない」とよく分からないことを言い出し、突然辞めていきます。そしてフリーターになるのです。

一時問題になった、「仕事をすぐ辞めてしまう生徒」の道を辿るとこのような現実が見えてきます。だから、大学へ進学する前にきちんと自分がどのような進路を辿ったとしても大丈夫なように、どんな大学が選択肢に入るのかを想定しておき、選択肢を増やして必要があるのです。

 

 

◯結論

これら全てをまとめると以下のように言えます。

推薦入試は、大学で講義や演習についていけなくとも頑張れるだけの気概や意思決定の強さを持っていれば得。

一般入試は、3年半後に再び進路について悩む時期が来ても、短絡的に考えずに選択できる力を持っていれば得。

どちらもないようならば、大学ではなく専門学校へ進むべき。

 

 

◯最後に

今回は最悪を想定して考えてきました。先生の仕事は本人の理想的な生き方を確定させることではなく、本人の理想的な生き方にたくさんの離脱ポイントがあったとしても、力強く生きていける選択肢を多く持たせることです。これからの時代は、1つの仕事だけで生涯を閉じることが難しくなってきます。早いうちからいろんな選択肢を持って社会へ出て行ってくれればと願っています。