今回は部活動顧問についてお話ししたいと思います。部活動については多くの人がネガティブなニュアンスで扱うことが多いため、その点に触れつつ、部顧問に求められることについて話していきたいと思います。
◯経歴無視の顧問任命
部活動の数は限られています。殊に中学校であれば尚更のこと。だから比較的若い教員が赴任してくるとなれば、経歴を聞かずに任命されることが多くあります。私が中学校へ事前に挨拶する機会をいただいた時、前任が東京へ異動する予定であったため、その場で引き継ぎを受けました。まだ何の覚悟もできていないのに、一通り引き継がれ、挙げ句の果てに年度を跨いでいないのに、部顧問会議にまで参加させられました。
◯なり手がいない現状
このような理不尽な扱いを受けるのは、私が拒否しなかった(したくなかった)ことと、跡を任せる人材がいなかったことによります。高校でもそうですが、中学校では基本的に複数の顧問がついて指導を行います。でも、いくら複数であっても主となる人が1人いなければ部活動は回っていきません。特に私の受け持ったソフトボールや野球は、監督が采配を振るため、その人が転勤となっても、副顧問が自動的に内部昇格というわけにはいかないのです。
◯私は副顧問の先生に恵まれた
そんな状況の中、副顧問についてくださったのが、私と同時期に来た方でした。この方は特別支援の高等部へ人事交流していた方で、同じような境遇であったことからとても気にかけてくださいました。私はこの方がいなければ鬱になっていたと思います。だから部活動に悩む全国の先生の多くは、部活動を見に来てくださったり、手を出さずとも気にかけてくださったりする存在がいないことが多くあるように思います。この点はなかなか難しい問題ですね。
◯初めてのスポーツに対する弊害
部顧問になる時にしんどい思いをする理由はそれだけではありません。自分よりも生徒の方が経験を多く積んでいるという点です。私の場合、小4から男子に混じって野球に取り組んできた女子たちが中学校からソフトを始めるという状況だったので、とても苦しい思いをしました。2、3年生にはもちろん偉そうなことは言えないし、1年生も自分より知識が豊富だったのです。ノックすら打てない私は、毎日家に帰る前にバッティングセンターへ寄り、600円分だけ打ち、何とかボールに慣れる努力をしました。
◯実は本当は初めてではない
なぜこういう発想が生まれたのかというと、自分の中学校時代の部活動での経験があったからです。私は野球部だったのです。
中学1年生の頃、野球部に入ってすぐに大きな事故をして、全治3ヶ月の怪我を負ってしまいました。そこから野球に対するやる気も、努力もしなかったことから、一度も公式戦に出ることはなく、引退しました。もうあんな中途半端なことはしたくない。そう思って努力したのです。途中で挫けそうになることもありましたが、副顧問の先生も初心者だからと言って、毎日バットとボールを持って帰って練習されていたことを知っているので、自分だけがサボってはいけないという気持ちにもなれました。この経験は、この後の部活動運営に大きく影響を与えていきます。
◯練習メニュー無視、サイン勝手に変更
そんな努力を続けながら、毎日の練習に参加していました。当然良いアドバイスもできず、3年生からは「何もしてくれない」と陰口を叩かれる始末…。中学生女子は何か違和感を覚えるとすぐに徒党を組んで、コソコソ話し始めるのでした。
それでも3年生引退後は、見様見真似で練習メニューを作ったりサインを出したりするようになりました。しかし、彼女たちの感覚とはまだまだズレがあったせいで、練習メニューを提示しても、この練習に変えますとか、試合中に出したサインを勝手に変更してしまうことがよくありました。たちが悪いのは、それで試合に勝ってしまうことです。何も言い返せませんでした。
◯ソフトを教える、ではなく、ソフトで教える
結局、私の方針に従えなかった彼女たちは初戦で敗退し、新チームとなりました。部活動の本来の目的は、勝利至上主義でなく、人として成長することだと考えた私は、徹底的に自分と向き合うことを伝えました。
技術があっても、周りから応援される存在でなければ意味がない。
この信念を基に、弱い自分と向き合うことを中心にミーティングを持つことにしました。試合には勝ったけれど、サインを見落とした。一塁まで全力で走らなかった。グラウンド整備を中途半端に行った。などなど。これらのことをしっかりと伝えたからこそ、保護者の方々からもたくさん助けていただくことができました。部活動は勝つことが目的ではなく、人間として成長する手段であることを確信した瞬間でもありました。
◯中学校は地域に支えられている
生徒と先生との関わりはこのようにして上手くやっていけるようになりましたが、同時に中学校は地域との関わりを意識せざるを得ませんでした。
私がソフト部顧問になった時、卒業生の親、現役生の親がコーチとして来てくれていました。また数年前に県大会へ出場した時のコーチである"おじいちゃん"たちも再び力になりたいと来てくれるようになりました。でも、この親コーチとおじいちゃんコーチが対立してしまったのです。管理職からは、どちらも排除せよとの指示。そこで私はある決断をしました。
◯全員コーチとして招く
コーチとして参加する方に、「生徒が言うことを聞かなくても怒らないでください」というルールを設けて、全員をコーチとして招いたのです。コーチとして参加するにあたって不満に思うのは、指導したことを守らないこと。でもコーチによって指導の仕方も違って、場合によっては真逆の指導をされることがあります。だから、コーチには「生徒が言うことを聞かないことがあります」と言い、生徒には「自分が信頼できる人の意見を聞きなさい」と伝えたのです。社会に出たら、いろんな人がいろんな意見を言ってくださるので、自分でそれらの意見を精査する力を少しでも身につけさせたいと考えたからです。
◯おじちゃんコーチ撤退
この方針を貫くうちに、理不尽に怒るおじいちゃんたちよりも、保護者コーチのことを生徒は信頼するようになっていきます。すると、おじいちゃんコーチからは、若い世代に任せたいという申し出がありました。私にとっては残念でしたが、部活動にとっては良い出来事になりました。
◯部活動運営で大切なこと
いろいろな視点で部活動について考えてきましたが、大切なことは、専門性の有無ではなく、先生が伝えたい核の部分を持つことだと考えました。私の場合、周りに応援されるためには、グラウンド整備や片付けをしっかりと行うこと。挨拶をすること。人手が足りない時に積極的に手伝うことが必要になります。そう言ったことを通して、勝つこと以上に大切なことを部活動を通して学ばせることが大切だと思うのです。
チームスポーツであれば、どうやって意見を出し合って、同じ方向を向けるか。個人であれば、どうやって昨日の自分の力を超えていくかを考えさせることが大切なのです。部活動は特に専門でなければ、生徒に実権を握られそうになって苦しい思いをしますが、それでも部活動を「通して」何を学ぶべきかを持っていれば、いくら弱いチームであっても支持してもらえるのです。
来週は高校編でお話しをさせてもらいます。