♯黒板エッセイ

高等学校の先生になった人が最初に読むべきこと

生徒へのメッセージと出版予定の書籍原稿をアップしています。出版社は決まっていません。教員12年目

風が強く吹いている

スポーツにおいて、「強さ」とは何か。主人公蔵原走(かける)は、陸上界において、最も速いタイムを出すこと、一位になることこそ「強さ」であると思っていた。しかし、箱根駅伝へ陸上経験のない素人たちと練習を重ねていく中で、その2つとは全く異なる次元に「強さ」があることに気づいていく物語である。

苦しくてもまえに進む力。自分との戦いに挑みつづける勇気。目に見える記録ではなく、自分の限界をさらに超えていくための粘り。

五区を走る神童を見ながら、主人公は「強さ」をこう表現した。もちろんこのチームも多くの場面で結果を残しているが、結果を残すこと以上に彼らが大切にしていることはこの「強さ」なのではないかと考えさせられた。

もう一つの特徴が、充実した施設をもつ大学陸上部や徹底管理型の指導者に立ち向かう学生達の姿である。例えば、白樺湖の夏合宿の場面では、朽ちかけの別荘、晩ごはんがカレーライスなのに対し、敵チームは新しい施設で、最高級和牛の焼肉を食べている、というような対比である。他にも、相手チームの監督を鬼監督とし、「暑いのが価値だと思え」「走りとはすなわちサバイバルだ」と怒鳴り散らしていたのに対し、自分達はキャプテン清瀬灰ニのコーチングによる自主的な練習が描かれている。この自主性を描写するために、大東文化大や法政大を長期に渡って取材していることも、作品にリアリティをもたらしているのだろうと感じた。

走るランナーが日々練習することでスピードを上げていくように、この作品も読み進めていくうちに、読むスピードが上がっていき、最後の箱根駅伝の場面は一気に読み終えてしまう。箱根駅伝を知っている人はもちろん、あまり見たことのない人はぜひ読んでもらいたい。