◯原文
夜 姑 江 月
半 蘇 楓 落
鐘 城 漁 烏
声 外 火 啼
到 寒 對 霜
客 山 愁 満
船 寺 眠 天
◯書き下し文
月落ち烏啼いて霜天に満つ
江楓漁火愁眠に対す
故蘇城外寒山寺
夜半の鐘声客船に到る
◯現代語訳
月はすでに沈み、闇の中に烏の鳴き声が聞こえる。厳しい霜の気配が、空いっぱいに満ちている
紅葉した川岸の楓、点々とともる漁り火が、旅の愁いに満ち、浅い眠りのまなこにチラチラと映る
折しも姑蘇の町外れの寒山寺から夜半を知らせる鐘の音が長く響く
長い夜はまだ明けずに、朝の訪れをじっと待ち続けることよ
◯音で感じる風景
最初の二文字は「月」「落」で、それぞれ「ゲツ」「ラク」で、入声(にっしょう)です。(だから、英語で言うと"Good luck"に近い感じになるのかな?)冬に近づく晩秋の月が、さっと沈んでいく様子を表現したことが音から分かります。
◯カラスの鳴き声
日本ではカラスは、夕方日が沈む頃に物寂しげに鳴くイメージがあります。この時代の中国では、「烏夜啼」(うやてい)という有名なフレーズがあるらしいのですが、使用場面を見ると大きな違いはないように思います。ここでは、夜が更けて、月が傾き、町の内外がひっそりとして、寒々とした中で、カラスの声がもの寂しく響きわたるイメージがあると言えます。いずれにしても、寂しさや夜に通ずる場面を連想させる表現だとも言えます。
◯「江楓漁火」の解釈について
今回の講義では、江楓と漁火と捉えて、夕方から夜明けにかけての光が出ている時間帯にチラチラと見える楓と漁り火だと訳しています。でもこれを「江楓のような漁火」と捉えることも可能です。チラチラ見える漁り火は楓のようだった、ということですね。
◯愁眠とは?
旅愁による浅い眠りだと解釈できますが、ここでは寝不足が言いたいのではなく、孤独な船旅が描きたかったのだと言えます。
◯蘇州はどんな町か?
前回は長安が乾燥地帯であることを扱いました。今回の蘇州は、町中に水路がめぐっている場所で、旅人は水路を利用して町にやってきたのだと言います。夕方になると門が閉まってしまうので、舟の中で一夜を過ごさないといけなかったようです。だから「到客船」なんですね。
◯起承転結
絶句の場合は
第一句(起句) 歌い起こし
第二句(承句) その流れの承け
第三句(転句) 展開
第四句(結句) まとめ
というルールがあります。
一方、律詩の場合は
第一句、第二句(首聯 しゅれん)
第三句、第四句(頷聯 がんれん)
第五句、第六句(頸聯 けいれん)
第七句、第八句(尾聯 びれん)
で、これを起承転結と対応させて差し支えないようです。
◯最後に
今回も七言絶句でした。張継の句は触れたことがあるのかもしれませんが、全く意識したことのなかった作者であったのでとても新鮮でした。
どうでも良いのですが、なぜこのタイミングで起承転結を教えてもらえたのかが不明です。次につながるのかな?