♯黒板エッセイ

高等学校の先生になった人が最初に読むべきこと

生徒へのメッセージと出版予定の書籍原稿をアップしています。出版社は決まっていません。教員12年目

【免許更新】漢詩名作鑑賞入門⑥ 春望編

◯原文

渾 白 家 烽 恨 感 城 國

欲 頭 書 火 別 時 春 破

不 掻 抵 連 鳥 花 草 山

勝 更 萬 三 驚 濺 木 河

簪 短 金 月 心 涙 深 在

 

 

◯書き下し文

国破れて山河在り
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
峰火三月に連なり
家書万金に抵る
白頭掻けば更に短く
渾て簪に勝へざらんと欲す

 

 

◯現代語訳

都の長安は、賊軍のためにすっかり破壊されたが、自然の景物は昔のままだ

荒れ果てた町にも春がめぐり来て、草や木が生い茂った

この戦乱の時節を思うと、可憐な花を見ても涙が頬を伝わり、

家族との別れを悲しんでは、鳥の羽音にも心が揺れる

戦いののろしは、三ヶ月もの長い間続いているが、

離れた家族からの手紙は、万金に値するほど貴重だ

いらだちがつのって、白髪の頭を掻けば掻くほど髪は短くなり、

官職を得たとしても、どうやら冠をとめるピンが挿せなくなりそうだ

 

 

◯音で感じる破壊音

「国」「破」は、それぞれ「コク」「ハ」です。「コク」は殻も同じ発音をするため、固いもので包まれているイメージが持てます。それが砕け散る「ハ」ですから、まずは町が破壊されるところからこの詩が始まるということですね。

 

 

◯「城」とは何か?

日本で「城」というと、名古屋城大阪城のような天守閣を思い浮かべますね。でも中国の場合、そうではありません。この時代の中国の都市は、城郭で囲まれています。つまり、町全体を「城」と言っていたわけですね。

 

 

◯「感時花濺涙」「恨別鳥驚心」について

この二文には擬人法が使われているのではないかという説があります。書き下しにすると、それぞれ「花も涙を濺ぎ」「鳥も心を驚かす」どうなんでしょう?

 

 

◯家族からの手紙に対する感覚

離れている家族からの手紙に対する気持ちは今の日本でも何となく想像できますが、当時の中国を見てみると少し違うように思えます。

当時の中国は、特に知識人や上流階級では結婚相手を親が決めます。だから、結婚した後に愛情を深めていきます。もしその相手が離れてしまうとなるとどうでしょうか。想像でしか語れませんが、日本が戦時中だった時の手紙のやり取りに近いのだろうと思います。

 

 

◯ハゲを強調!?

「白頭掻更短」の白髪を掻くこと自体は、焦りやイライラを表していますが、ピンが留められないほどハゲたことを表しているのかと思ってはいけません。(本当にそうなのかもしれませんが、強調したいことは別です。)

その後の「渾欲不勝簪」にあるように、役人に戻ることができないことを強調しているのです。

 

 

◯対句

一組になる二つの句を互いに対応させて効果を高める技法を「対句」と言います。中学校で習うレベルなので聞いたことがあるかと思います。律詩の場合は、第三句と第四句、第五句と第六句を対句にするというルールがあります。白文に返点を振ると同じになるので、それが一番分かりやすい例だと思います。単語レベルで見ても、今回で言えば「花」と「鳥」が対比されていることが分かりますね。

 

◯最後に

今回は律詩を扱いました。有名な詩ですから、聞いたことはありましたが、最初の二文字の衝撃は、今回学んでいたからこそ感じられたのだと思います。残り一つも楽しんで漢文を勉強していきたいと思います。