〇そもそも記憶力とはなにか?
実際に「記憶力」という能力は存在しません。具体的には4つの要因があるとされています。
①基礎的認知能力(ワーキングメモリや処理速度)
②記憶方略(覚えるための工夫)
③メタ記憶(自分はどれだけしっかりと覚えられたか?自分はこうした方が覚えやすいという思い込み)
④記憶内容に関連した知識
前回はワーキングメモリについて扱ったので、今回は②③を中心に話をしていきます。
〇記憶方略について
●処理水準の効果
どのように記憶力を高めるか?という方法の話です。記憶する上で脳内では処理が行われます。例えば「紅葉」という形(文字)よりも「モミジ」という音(音韻)の方が深い処理、つまり覚えやすいとされています。また「モミジ」という音よりも「秋に赤色や黄色に染まる葉」の写真や絵の方がより覚えやすいです。写真を見たときに、あの場所の写真だ!と思い出せるのはこのためなんですね。
●自己生成効果
例えば「えんぴつ」という言葉を覚えるときには、単に繰り返し唱えたり書いたりするよりも、勉強の時に使うもの「え・・・」という問題にした方が覚えやすいということです。
●快-不快判断
文字通り、それが自分にとって快いものかどうかで覚えやすさが変わるということです。
これは授業でも使えます。例えば、「ヴァリニャーニ」(ヴァリニャーノ)という人物を覚えるときに、この人はすごい人か嫌な奴かを考えながら調べていくと、自然と覚えられると思います。ちなみにこの人、信長にも秀吉にも会っていて、活版印刷機を日本に持ち込んだイエズス会宣教師だそう。活版印刷を持ってきたという意味ではすごい人かも。
●精緻化、対連合学習
ヴァリニャーニの例のように、記憶項目に何らかの情報を加えることを「精緻化」といいます。一番簡単なものは「ヴァリニャーニ」→「宣教師」こういう学習の仕方を対連合学習と言いますが、これをさらに精緻化するとより覚えやすくなるということです。
〇メタ記憶
自分は記憶に対してこういうタイプだと決めつけてしまうことをメタ記憶知識と言います。これは間違っていることが多いらしいのです。例えば、覚えるときにこうしていませんか?
何度も書いて覚える。問題を解いて〇付けして終える。テストに出そうなところだけを練習する。賢い人のノートを写させてもらう。などなど
これは不適切なメタ記憶知識です。
先ほどのヴァリニャーニの例にあったように、その人についての情報を集めたり、なぜこの人が大事なのかを理解したり、自分で調べたりすれば記憶に残りやすいのに、そんなことをしたがりません。なぜでしょうか?
〇なぜ中学生たちは有効な方略を利用しないのか?
2013年の吉田さん・村山さんの論文によると理由は3つ。
①コスト感阻害仮説
そんなやり方は面倒だと思ってしまう
②テスト有効性阻害仮説
そんなやり方で勉強してもテストでよい点数がとれない
そんなやり方をしなくてもテストでよい点数がとれる
③学習有効性の誤認識仮説
何度も書いたり、テストに出そうなところだけを練習したりすることがベストだと思っている。
〇我々の課題
まずは有効的な方法をきちんと教えること。そして、面倒なやり方が一番効率的な勉強方法だということを体感させられるように授業やテストを組み立てていくことが大事だと分かりました。