◯原文
多 南 水 千
少 朝 村 里
楼 四 山 鶯
台 百 郭 啼
煙 八 酒 緑
雨 十 旗 映
中 寺 風 紅
◯書き下し文
千里鶯啼いて緑紅に映ず
水村山郭酒旗の風
南朝四百八十寺
多少の楼台煙雨の中
◯現代語訳
見はるかす平野にウグイスの声が響きわたり、木々の緑が紅の花とあざやかに照り映えている
水辺の村にも山沿いの村にも、酒屋ののぼりが吹き渡る風にゆれている
一方、古都金陵の町は往時をしのぶ南朝以来の寺院が今も多く立ち並び、数多くの楼台が春の霧雨のなかで絵画のように美しくたたずんでいる
◯鑑賞のポイント
①唐と宋の距離感覚、時間感覚の違い
唐代は楼閣など高台に登って遥か遠くのものを望んで詠むことが多く、宋代では自分の家の周りの風景を慈しむことが多い特徴があります。なぜ違うのか?
②唐と宋の作詩場面の違い
それは作詩の場面の違いからだと言います。唐代では宮廷や、有力者の宴会などで競い合って作られたものが多くあります。一方で宋代は、日記のように日常を記録するものが多くあり、作品数も数倍に上ります。
③南朝の都「金陵」のイメージ
都は繁栄の対象であるイメージを持ちがちですが、そうではないようです。隋の煬帝による大運河事業により揚州が栄え、代わりにこの金陵は昔を懐かしむ場所となったと言います。唐代の頃にはその面影もなかったのでしょうか?
④作品の世界は目の前で起きている世界か?
言葉からどのようなものが連想されるかについての説明もありました。
「千里」…平坦に続く水辺
「鶯」「緑」「紅」…第一講でも扱った色彩の対比
そしてウグイスの声も聞こえてくると、春の情景が思い浮かべられます
「酒旗風」…暖かな春風です
旗のたなびく音も聞こえるかもしれません
「四百八十寺」…480個の寺があった、ということよりもたくさんのお寺があってそれだけ仏教が盛んであったことを表します
読経の声も聞こえてくるかもしれません
「楼台」「煙雨」…水墨画で表されることが多いもの
これらを見ると、どうやら目の前の風景とは限らないと言えそうです。だから、前半は晴れていたのに急に雨が降ってきたことを表す天候の変化が激しい様子ではなく、「江南の春」という題材をどう表現するか?を一枚の絵のようにした作品と言えます。
一枚の絵のような漢詩。これは授業の最後に絵にしてみると面白いのかもしれませんね。
◯音調の美しさ
●押韻
初回から何度も出てきましたし、中学校でも高校でも習った内容なのでみんなが知っているものです。
確認すると、韻とは、頭の子音を除いた残りの部分のことです。
例えば「天」の発音記号(ピンイン)は「tian」※声調は省略しています
声調については後述します
と発音しますが、この「ian」が韻です。
この音色の文字を、偶数句末に置くことによって音色を整えることを「押韻」「韻を踏む」と言います。第一句で踏むこともありますね。
これらは漢和辞典で調べれば最も確実ですが、この教授によれば、漢字音で読んだ時に、子音を引いた音が同じであれば、韻を踏む可能性が高いのだそう。
春暁で扱ったものを例に見ると、
暁…「gyou」鳥…「tyou」少…「syou」です。
では、同じ発音記号ならば同じ発音なのか?というとそうではありません。発音に関しては、日本語でも「い」「ゐ」の違いがかつてありましたが、中国語ではアクセントの違いが古代からあったようです。
●声調(四声)
近体詩には平仄(ひょうそく)というルールがあるようです。このルールについていくつかのサイトを見ましたが、結果Wikipediaが一番分かりやすかったので載せておきます。
参考
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E4%BB%84
この発音の仕方についての基本用語を下にまとめました。中高生に伝えることはない内容ですが、興味深い内容ではあります。
平声(ひょうせい)…高く平らな調子
これは今の中国語の第一声、第二声に変化しました
上声(じょうせい)…低いところから上がる調子
これは今の中国語の第三声に変化しました
去声(きょせい)…高いところから急速に下がる調子
これは今の中国語の第四声に変化しました
入声(にっせい、にっしょう)…最後がp.t.kという子音で終わる調子
これは南方方言に残っているのだそう
だから「国」は「guo」で第ニ声の発音をするので、平声に見えますが、漢字音では「kok」(コク)なので、入声だと言えます。これは難しい…。ここまで調べて音読できると、中国語に興味を持つ中高生が出てきそうですね。私は"上手く"使いたいと思います。