◯鑑賞のポイント
①当時の生活に即して理解を進める
今の時代の日本の生活から勝手に推測してはいけまさん。
②作者の育った環境を理解する
愛知県豊田市出身の私が、クルマの製造工場を見て懐かしく思うように、育った環境によって、感じることも変わってきますので、この点をしっかりと理解する必要があります。
◯原文
低 挙 疑 床
頭 頭 是 前
思 望 地 看
故 山 上 月
郷 月 霜 光
◯書き下し文
床前月光を看る
疑うらくは是れ地上の霜かと
頭を挙げて山月を望み
頭を低たれて故郷を思う
◯現代語訳
秋の静かな一夜、寝台の前に月の光が白くさしこんでいる
今まさに霜が地上に降っているのでは、と見まごうばかり
光をたどって顔をあげると、窓の外には山の端にかかる美しい月
望郷の念が一層つのり、ただ一人寂しくうなだれている私
◯ことばの差異
・床と地
床は、日本ではゆかを表し、中国ではベッドを表します。
地は、日本では地面を表し、中国では地面も表すがゆかを表すこともあります。
◯静夜思の「床」もベッドか?
収蔵家の馬未都氏は、ベッドとは限らないとしているのだそう。椅子や榻(とう)と呼ばれるソファベッド?みたいなものである可能性が出ていて、まだ結論は出ていないそうです。いずれにせよ、静かな夜に楽な姿勢で月の光を感じていたことに間違いはなさそうです。
◯「窓」とは、どういうものか?
「窓」と聞くと、教室にある「窓」を思い浮かべますが、唐代の窓は格子窓のように、風通しの良い窓だったのだそう。冬は寒いので布や紙を貼っていたそうだけれど、それだけ夏は暑かったのでしょうか。日本で言えば、盛唐は奈良時代。そんなに暑かったという話は聞いたことがないですが…。
◯「霜」をどう考えていたか?
今でこそ「霜」は、クルマのフロントガラスや水溜りが固まったもので、水蒸気が関係していると分かりますが、唐代では空から降るものだと考えられていたのだそう。寝ている間に降り積もる雪のように、朝起きたらできている白いもの、というイメージだったのでしょうか。子どもの頃に朝起きたら雪が積もっていた時にはしゃぐように、霜を見た時にはしゃいでいたのでしょうか。
◯「山」と「月」
電車を使うような地域で育った我々にとってみれば、山も月も遠くにあるイメージがありますが、李白の生まれ育った場所は山深いところであるため、これも違うと思われます。だからとても親しみのある存在として、故郷の原風景として「山」と「月」を書いたのかもしれません。
◯「故郷」は一つではない!?
普通日本では、故郷というと「生まれ育った場所」を表し、第二の故郷という言い方をすれば、「長く生活したり親しみのあったりする場所」という意味で使われます。しかし、唐代では「生まれ育った場所」という意味だけでなく、唐の都「長安」を指す場合もあるのだそう。どちらで捉えても良さそうですけどね。
◯なぜ夜には月がつきものなのか?
ダジャレではありません。笑
中国でも日本でも、今ほど灯りをつけたり夜更かしをする習慣はありませんでしたので、活動をする時には必ず月がないといけなかったからだそうです。月の光を頼りに歩く。風流ですね。
◯最後に
今回は李白でした。「静夜思」は初めて触れた作品ですが、やはり知識が必要だと感じました。勉強しなければなりませんね。あと5つあります。お楽しみに。