♯黒板エッセイ

高等学校の先生になった人が最初に読むべきこと

生徒へのメッセージと出版予定の書籍原稿をアップしています。出版社は決まっていません。教員12年目

【高校生向け】古典を学ぶ意味とは

※3000字近くあります。この内容を30分ぐらいで扱おうと思っています。在校生はネタバレなので読まないように。笑

 

今日から3年生の古典の授業を始めていく訳ですが、そもそもなぜ古典を学ぶべきかは分かっていますか?

さまざまな答えがあると思いますが、私は2つあると思っています。

1つ目。次の手紙が大好きな人から来たとします。

「山へ行かなむ」

さて、あなたはどうしますか?

①どこの山へ行きたいの?と聞く

= 山へ行きたい

②あなたが行くの?と聞く

= 山へ行くだろう

③なぜ私なの?と聞く

= 山へ行って欲しい

④いつ行く?と聞く

= 山へ行こう

 

もし、この言葉の意味が分かっていなければ会話が成り立ちませんよね。古文では"そういう意味で"現代語訳ができなければならないのです。言い方を変えれば、別に正確に訳せなくたって文法の説明ができなくたって問題ない訳です。(問題によっては正確でなければならない時ももちろんありますが、スタートはここが大切です。)

 

答えは、③です。「(あなたに)山へ行って欲しい」

ちなみに「なむ」は、他者への願望を表す終助詞です。

 

ではこれだったら?

山へ行きなむ

答えは、②です。「山へ(きっと)行くだろう」

(強意の助動詞「ぬ」+推量の助動詞「む」)

 

 

つまり、相手がしようとしていること、思っていることを正確に捉えることが1つ目の理由です。

 

2つ目。そんなこと言っても、古典勉強しても意味がない、と言うかもしれません。そんな人のために、次の問題です。

 

これからの授業では、予習をすべし!

この「べし」の意味は次のうちどれ?

①これからの授業では、予習をしなければならない!(当然)

②これからの授業では、予習をしなさい!(命令)

③これからの授業では、予習をするのがよい!(適当)

 

先ほど、「正確に訳せなくたって問題ない」って言いましたよね。答えは全部です。いや、①でしょ、②でしょというかもしれませんが、全部答えになり得るのです。だから、古典の文章にあたる度に、これはこの意味だ!と断定するのではなく、こういう意味もあるかもしれないと、複数通りの意味を推測する習慣をつけるのです。進学先でも就職先でも、相手の言葉をさまざまな角度から捉える必要が出てきます。そんな時に、古典の文章を読むノウハウがあれば、もしかしたらこの言葉って違うニュアンスがあるのでは?と立ち止まることができるのです。

今の世の中は、言葉を1つの意味で解釈して批判したり、相手を困らせたりすることが多いです。政治家見てるとそうですよね。だから、古典を学ぶことで、語彙力をつけることはもちろんだけれど、いろんな見方を探す力をつけよう、という気持ちで1年間取り組んで欲しいなと思います。

1つ大事なことを忘れていました。私の授業を受けても求めるような力はつきませんよ。私の授業は、ある程度の知識やノウハウは教えるけれど、1番はみんなが頑張ろうという気持ちをもつためのものなので、家での勉強を頑張ってくださいね。まさに、これからの授業では、予習をすべし!ですね。

 

古文の話ばっかりしたので、漢文の話もしますね。

次の文を見てください。

 

梅花歌卅二首[并序]  
天平二年正月十三日、萃于帥老之宅、申宴会也。
于時初春令月、気淑風和。
梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香。(以下略)


同志社女子大の教授の書き下し文、現代語訳を引用させてもらうと、

 

天平二年正月十三日、帥老の宅に萃(あつ)まりて、宴会を申(の)べたり。時に、初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぎ、梅は鏡前の粉を披(ひら)き、蘭は珮(はい)後の香を薫らす。

 

天平二年正月十三日に、旅人の邸に集まって宴会を開いた。折しも初春のめでたい月、空気は清らかで風も穏やか、梅は鏡の前で白粉をつけた美人のように白く咲き、蘭(藤袴)は身に帯びた匂い袋のように薫っている。

 

ここまで見て、出典は分かりましたか?そうです。万葉集です。今の日本の元号「令和」の基となった文です。日本人は元々、文字を持たない民族でしたが、お隣の国から漢字を輸入して初めは漢文で書いていました。

でも日本人独特の気持ちを表現できないことに気づいた先人たちは、漢字の日本語化を進めたのです。

これは4パターンあります。

①正訓②義訓③借音④借訓です。

①は、漢字本来の意味に即したよみ方です。例えば、桜が咲く穏やかな季節のことを中国では「春」と表記し、日本では「はる」と発音するため、「春」=「はる」となったということです。

②は、語の表す意味によって漢字をあてたものです。例えば、田舎です。この言葉は田(農地)の舎(建物)という意味ですが、その二語から連想して、都会から離れた田んぼと家が点々とした所を表したことから「田舎」=「いなか」となったということです。他にも「恋水」=「なみだ」みたいなものがあるとか。面白いですね。

③④は漢字そのものの音読みや訓読みを利用したもので、漢字の元々の意味とは関係のないものです。では次のものは何と読むでしょう。

「波奈」「経湯」(答えは一番下)

漢文は日本人にとって、切っても切れない関係のものです。全てはどこかで繋がっている。そんなことを感じる一年にしていけたら良いなと思います。これからよろしくお願いします。

 

参考文献

高校生の苦手解決Q&A presented by 進研ゼミ高校講座 【助動詞】「べし」の意味が見分けられない

https://kou.benesse.co.jp/nigate/japanese/a13j0112.html

 

元号「令和」にまつわる〈5つの誤解〉を漢文のプロが斬る

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64375?_gl=1*1j60rn1*_ga*YWg4andINVlPMV9XNnhqOHZhWnVKVEFBNFZiN2hXZVAtUTRhZ2c4RllhWWV1NnNodEQ4bU5BUVJUY01abnM4WA..

 

元号「令和」の出典について

2019/04/12 吉海 直人(同志社女子大学日本語日本文学科 特任教授)

https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/11198

 

日本語誕生の秘密。表意文字表音文字を使いこなす稀有な言語

https://search.yahoo.co.jp/amp/s/www.mag2.com/p/news/417240/amp%3Fusqp%3Dmq331AQQKAGYAfyh1f23jOzBPrABIA%253D%253D

 

答え「波奈」は「はな」。「経湯」は「ふゆ」でした。